カルティエ パシャの歴史記事

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カルティエ パシャの歴史

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初めに

カルティエ パシャは、カルティエを代表する人気のコレクションの一つです。
今回は、歴代のパシャに関しまして、ヴィンテージのパシャから、現代のスタンダードなモデルまで、簡単な歴史を踏まえながら、ご紹介していきたいと思います。

パシャの原型

1930年代、マラケシュのパシャはルイ・カルティエに、水泳中に装着できる、十分な耐水性を持った時計の作成を依頼しました。
それに対し、カルティエは、防水性を保つだけでなく、王室の公務に十分耐えられるような、エレガントな時計を贈りました。
この時計がどのようなものだったのかは、実際の記録が無いため今日知ることはできませんが、角形で初めて防水を実現した「タンク・エタンシュ」であったとされます。
なお、エタンシュ(仏:etanche)には「防水」や「気密」といった意味があります。

1943年には、エタンシュをオマージュしたラウンドデザインの防水時計が一本のみの特別発注で製作されました。
こちらの時計はパシャという名称はまだついてなかったものの、すでに、リューズプロテクターやグリッドを備えたラウンド型の時計でした。そのため、今日の「パシャ」の原型とされています。

cartier / 1943
アラン・ドミニク・ペラン

激動の1970代を経て

1975年から1998年までカルティエのCEOを務めたのがアラン・ドミニク・ペランです。
クォーツショックや、1970年代の世界的経済不況による激動の時代にカルティエのトップに位置していたペランは、時計に対しても既成概念にとらわれない革新的なアイデアが必要と考えました。
この時代は、パテック・フィリップ ノーチラスやオーデマ・ピゲ ロイヤルオークなどの、高級時計ブランドのスチール製ラグジュアリースポーツが登場し、その革新的なデザインが大きな話題となっていました。

1977年に発売された「レ・マスト・ドゥ・カルティエ」の大ヒット、更には1978年に「サントス」を発表し、カルティエは、自らのレガシーを新しい世代に伝えることに成功していました。
そして、1980年代に入ってもなお、防水の高級腕時計の市場に需要があることは明らかとなっていました。
1985年、この分野での経験を持つデザイナー、ジェラルド ジェンタ氏の協力を得てパシャのコレクションは誕生しました。

1943年のオリジナルに敬意を表した「パシャ」の名がコレクション名につけられたのです。

1980年代、ジェラルド・ジェンタとパシャのデザイン

ジェラルド・ジェンタ氏といえば、ロイヤルオークやノーチラス、IWCのインヂュニア等を手がけた時計業界における巨匠の一人です。

ジェンタがデザインしたパシャは、1943年に特別生産されたモデルをリデザインしたもので、38mmのラウンド型ケース、ヴァンドーム型のラグ、カボション付きのねじ込み式リューズキャップ等のデザイン要素はそのまま引き継がれました。

当時、カルティエはスクエア型のドレスウォッチでよく知られていましたが、パシャの誕生によって、当時の消費者の関心を、よりスポーティなスチール製の時計に向けることになりました。

パシャ コレクションは最初のリリース以来、およそ40年間で大きく成長し、その性能は進化してきましたが、これらのデザインの要素に関しては、現代にいたるまで基本的には変わることがなく受け継がれています。

パシャ ドゥ カルティエの魅力のもう一つの鍵は、文字盤のデザインにあります。
丸みを帯びたアラビア数字のインデックスに、スクエア型の秒インデックスが配置され、文字盤の中央に目線を移動させる構造となっています。
複数の幾何学形を巧みに操り解釈する、カルティエの卓越したデザイン性がここに示されています。

1985年の初年度から1987年にかけて、カルティエのパシャは世界に急速に認知されていきました。
1987年には、パシャの様々なバージョンが一度に発表されました。

ジェラルド・ジェンタ氏
パシャC ピンクシェルダイアル
Ref.W3106499 / 2003年

1990年代以降、広がり続ける人気

パシャ・ドゥ・カルティエ コレクションの規模と人気は、1990年代にさらに爆発的に高まりました。
パシャの発売当初は18Kモデルしか存在しなかったものの、90年にはステンレススチール製のモデルが発売されます。
そして1995年、直径35mmのスチール製「パシャ C」が追加され、たちまちカルティエの新しいスタンダードとなりました。
また「パシャC」はその小型のケースサイズから、女性にとっても魅力的なコレクションとなりました。

その後、パシャ・ドゥ・カルティエには、複雑機構を備えたモデルが加わりました。
CPCPのコレクションでは全て限定モデルの扱いとなり、トゥールビヨンを備えたものや、エナメルコレクションなど、美術工芸品さながらの手の込んだ作りのモデルが毎年のように登場しました。

パシャ シータイマー クロノグラフ Ref.W31089M

2005年にはオリジナルのパシャ20周年を記念したアップデートが行われました。
この年、パシャ42が発表され、ケース径が拡大し、ジャガー・ルクルトのcal.8000MCが搭載されました。

2006年には男性的なデザインへのこだわりを感じさせる「パシャ シータイマー」が発売されます。
パシャの防水性のリューズキャップ、回転ベゼルなど、防水時計に対するこだわりを感じさせる要素に、黒色の夜光ダイヤルを備えていました。
2008年には、シータイマー クロノグラフが発売され、スポーティなスタイルをさらに強化しました。

現代のパシャ

2020年現代、新しいコレクションの中心となっているのは、それぞれユニセックスのモデルとなる、35mmと41mmのモデルです。

41mmのモデルは、スチールのモデルと、1985年のオリジナルへのオマージュとしてイエローゴールドのモデルが存在します。
35mmの小型モデルには、スチールとローズゴールドモデルが存在し、48個のブリリアントカットダイヤモンドがセットされた、まばゆいばかりのベゼルを備えたモデルも発売されました。
これらのモデルはすべて、100メートルの防水性、カルティエ・マニュファクチュールの自動巻きムーブメント、ストラップをユーザー自身で素早く交換できるクイックスイッチ交換システムを備えており、アクティブな要素を満たしています。
ブレスレットのモデルには「スマートリンク」サイズ調整システムを使用して、リンクを簡単に付け替えできるようになりました。

パシャ ドゥ カルティエ ©️ cartier 2022
パシャ 38mm GMT パワーリザーブ Ref.W3014456 / 2000年代

これからのパシャ まとめ

カルティエのパシャ ドゥ カルティエは、1980年代、カルティエ渾身のラグジュアリースポーツとして考案されました。
コレクションは長年にわたって盛衰を繰り返してきましたが、パシャは今でもその役割を果たし、独自の進化を遂げています。過去と現在を見れば、パシャの未来は明るいといえます。

したがって、ドレスウォッチの要素を少し加えたスポーティな時計、そして古風な魅力が詰まった時計を探しているユーザーには、パシャ ドゥ カルティエがおすすめです。

パシャの特筆すべきデザイン要素

グリッド

1943年の原型となったモデルからすでに用いられていた、ガラスを保護するパーツです。
フラットな形状のタイプと、弧を描くようなドーム形状のタイプがあります。
後者のカーブを描くタイプは、2003年から用いられており、比較的こちらのデザインの方が人気があります。
パーツは取り外して利用が可能です。
パシャは、グリッドありだとカジュアルな印象を与えますが、グリッドを外すと途端にフォーマルな印象になります。
長らく現行のモデルには使われてきませんでしたが、2022の製品にグリッド付きのパシャが復活しました。

ドーム型
フラット型

ダイヤル

ラウンド型の文字盤の中に四角形の秒インデックスが刻印され、アラビア数字が3,6,9,12時方向に備わっているのが、パシャの基本的なデザイン構成となります。
モデルによっては、ローマンダイヤルのモデルもあり、こちらも人気があります。
針はダイヤ型のローザンジュ針です。

ラグ

パシャのラグは少し特殊で、ヴァンドームのように12時、6時位置の中央にラグを持ちます。
それを挟むようにバンドやブレスが取り付けられ、両サイドをビスで止める形になっています。

リュウズプロテクター

リュウズを守るように、チェーンで繋がれた、ねじ込み式のプロテクターが付きます。これは、例外なくパシャに備わっている最も伝統的なデザイン要素です。プロテクターにはカルティエの伝統に伴ったカボションが付き、デザインの個性として重要なポイントとなっています。

パシャ 35mm グレーダイアル

フィガロ ブレスレット

フィガロ ブレスレットとは、いわゆる5連パンテールブレスのことで、フィガロとは、ボーマルシェの劇の主人公に着想を得たと思われる美しいブレスレットです。
純金のブレスレットらしく重厚なエレガンス性を備えています。
パシャの発売後、最初の数年間しか入手できなかったとされ、すぐに一般的なブレスレットに置き換えられました。
オリジナルのフィガロブレスレットは、コレクターの間で人気となっています。

キャットアイ

インダイヤルが立体的で、楕円形のかたちをしていることから猫目とも呼ばれる、パシャクロノグラフの初期デザインです。
インダイヤルは後に正円になっていきますので、キャッツアイのモデルが見つかれば貴重です。

パシャ シータイマー クロノグラフ
Ref.W31089M

パシャを愛用する有名人

カルティエはいつの時代も、エレガンス性とファッションを超えたスタイルの代名詞です。パシャに関しましても、有名人のファンが多く存在します。
ピアース・ブロスナンは、80年代と90年代にパシャを着用していたハリウッドスターの一人です。
最近のパシャ ドゥ カルティエのファンには、次世代の有名人も含まれており、ウィル・スミス、メイジー・ウィリアムズ、トロイ・シヴァンなどが、パシャの所有者として知られています。

主なモデル

パシャ ドゥ カルティエ

1985年から続くパシャシリーズの現行コレクションです。
スポーティでありながらエレガントなデザインが特徴で、メンズ、レディースともに幅広いラインナップが揃っています。

パシャ 38mm Ref.W3103155 / 1990年代

ミスパシャ

女性用の27mmサイズで、全てのモデルがクオーツ式で扱いやすく、薄型で小ぶりな作りをしています。
エレガントで華やかなデザインが特徴で、女性が着用しやすいシリーズです。

ミスパシャ Ref.W3140008 ピンクダイヤル

パシャC

パシャの誕生10周年を記念して、1995年にステンレスの実用的なモデルとして発売されました。
35mmの小ぶりなケース、スポーティな「H」型リンクのブレスレットを備えたパシャCは、パシャの世界への新しい入り口となりました。

パシャC Ref.W31074M7 / 2000年代
メリディアン

パシャCをベースに、GMT機能を搭載したモデルです。
メリディアンとは子午線を意味し、ダイヤルは地球儀を模したデザインとなっています。
ベゼルには24時間表示が刻印されています。
初期にはグリッドが搭載されたモデルもありました。

パシャC メリディアン GMT Ref.W31029M7

シータイマー

2006年に発売されたモデルで、現在は生産を終了しています。
男性用は40.5mmのケースサイズです。
女性用は33mmで、これはパシャCよりも一回り小さいサイズとなります。
100M防水、逆回転防止ベゼルを搭載し、スポーティさを感じさせるモデルです。

パシャ シータイマー Ref.W31077U2

コンベックスグリッド

製造を終了した、カルティエの人気のシリーズの一つです。
リューズカバーとグリッドが取り付けられているのが特徴的で、デザイン性の高いモデルです
名前の“コンベックス”はドーム型を意味し、“グリッド”は格子を意味しています。
このモデルには、グリッドが名前の通りドーム状になっているものと、グリッドがフラットになっているものの二種類が存在しています。

コンベックスグリッド 38mm Ref.W31059H3 / 2005年

創業150周年モデル

1997年にカルティエの創業150周年を記念して作られたシリーズです。
1847本限定で作られました。カボションは、コーポレートカラーに合わせてルビーが使われています。カルティエの”C”をモチーフにしたギョーシェ文字盤と、ローマンダイヤルの文字盤は限定版ならではです。

パシャ 38mm 150周年記念 1847個限定 / 1997年

38ミリN゜950

基本的なデザインは他のパシャと同じですが、回転ベゼルの素材にプラチナ950という高級素材を使用しています。
また、リューズのカボションもブラックセラミックが用いられメンズライクな印象です。そして、パシャのレギュラーモデルではあまり見られない黒文字盤が用いられていることが特徴です。

パシャ 38mm 950 グリッド
Ref.W3105255 / 2003年

CPCP(コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ)のモデル

ナイト アンド デイ

1985年から続くパシャシリーズの現行コレクションです。
スポーティでありながらエレガントなデザインが特徴で、メンズ、レディースともに幅広いラインナップが揃っています。

パシャ ナイト アンド デイ
CPCP トゥールビヨン モデル

38mmのトゥールビヨンモデルが発売されていますが、どれも10〜30本程度の限定販売品です。

・1998年のCPCP初年度に発売されたモデルは、カルティエのダブルCのロゴが大きく中央にデザインされた文字盤が特徴的です。

・1999年のモデルは、従来的な文字盤のデザインに近くなり、トゥールビヨンムーブメントの上に、パシャの特徴的な四角いレイルウェイトラックのブリッジが採用されました。

・2000年のモデルは、デザインが1998年のダブルCに戻りますが、ロゴ内が青いエナメルで埋められました。

・2001年にはCPCPトゥールビヨンの最終モデルが発売されます。

【カルティエ パシャ エナメル コレクション】

パシャ CPCP トゥールビヨン / 1998
パシャ トゥールビヨン CPCP / 1999
パシャ トゥールビヨン CPCP / 2000
カルティエ パシャ エナメル コレクション

2004年にカルティエのCPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ)に属する形で発表された、世界10本限定の「パシャ エナメルコレクション」です。

エナメルコレクションに用いられる技法の一つに、「クロワゾネ」があります。
金属の土台に枠を作り、内側をエナメルで埋めて装飾します。濃淡を演出するために違う釉薬をそれぞれの枠に施すなど、さながら美術工芸品のような作業で焼き上げられたクロワゾネ文字盤は、表情豊かで希少な個体となります。

また、採金師が金属にくぼみをつくり、そこにエナメルを流し込んで焼き上げる技法は「シャンルべ」と呼ばれます。こちらはクロワゾネと比べ、より立体的な視覚効果があり、前景、人物、背景が別々に動く仕掛け時計の「オートマタ機構」となると、生産本数はさらに限られます。

基本的に市場に出回ることは稀ですが、
エナメルコレクションは、近年1000〜2000万円でちらほら出てきているとのことで、もし興味がある方は、こまめにチェックをしてみるといいかもしれません。

パシャ クロワゾネ
パシャ クロワゾネ
パシャ.シャンルべ

筆者あとがき

自分も2000年代のスチール製パシャを購入してしまいました。
グリッドのパーツはつけ外しがききますが、基本的にはつけたまま使用しています。
グリッドの着用中でも意外と時刻の確認には影響ありません。
日常生活でばんばん使っていてお気に入りです。

パシャの新作を自分で作ってみたら

カルティエ パシャの来年以降の新作を勝手ながら予想してみました。
例えば、パシャ ワールドタイムがあったら面白いなということで、想像で描いてみました。
ムーンフェイズやパワーリザーブがついてても面白いかもしれません。
あったら欲しいですね。


この記事を書いた人-
SY

イリスラグジュアリー新人時計ライター。
ブランドの歴史を研究中。