CPCPの歴史と背景
コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ
「cpcp」とは
CPCPとは、「コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ」の略称で、カルティエが1998〜2008年まで展開していた、最上級の機械式時計コレクションです。
直訳すれば「カルティエ・パリのプライベート・コレクション」となり、カルティエの歴史と技術の粋を集めた特別なコレクションということが伺えます。
過去の歴史的な名作のデザインを元に作成され、現代の技術と素材によって復刻させた点が特徴的です。
CPCPは近年、その価値を高めているコレクションの一つでもあります。
特に、2017年のコレクション プリヴェといったCPCPの流れを汲むコレクションがスタートしてからは、再評価の流れがあります。
元々の生産数も少なく、金の高騰やコロナ禍において、その希少性から、さらに価値は高まり続けています。
そのためか、時計店では店頭に出すと、一定の期間をおいてすぐに売れてしまうことが多いです。
インターネットでもチェックされている方が多いこのCPCPシリーズ、いかにして誕生したのでしょうか。
CPCPコレクションの誕生
1990代、クォーツ危機をきっかけに、各時計メーカーには新たな実験精神が芽生えていました。
ダニエル・ロート、フランソワ・ポール・ジュルヌ、ロジェ・デュブイなどの独立系メーカーが独自のブランドを立ち上げ、機械式時計製造の新たなビジョンを打ち出しました。
オーデマ・ピゲやヴァシュロン・コンスタンタンなどの老舗メーカーでさえ、複雑機構に重点を置いた独特で珍しいモデルを生み出しました。時計業界は徐々に復興を遂げ、消費者は再び機械式時計に興味を持ち始めていました。
こうした背景から、カルティエは真の時計製造ブランドとしての信頼を新たにすべく、デザインとメカニズムに新たな焦点を当て、あえて過去の名作に目を向けていきます。
1998年に発表されたCPCPの目的は、カルティエの中でも最高級の機械式時計のコレクションを作ることでした。
クラシックでありながら、現代的な要素も取り入れたデザインは、多くの時計愛好家にカルティエの魅力を再認識させることに成功しました。
特に、その分かりやすい高級感の見え方によって、男性ファンの取り込みに成功したことは特筆すべきことです。
CPCPの成功は、他の高級時計メーカーにも影響を与え、歴史的なモデルの復刻や限定生産モデルのリリースが盛んになりました。
CPCPコレクションの生産数が少ない理由
CPCPのモデルの中には、わずか10数本の限定版として発売されたものもあれば、限定版ではない時計も200~250本程度しか製造されませんでした。
これが、今日オークションでCPCPがほとんど見られない理由の1つでもあります。
まず、自社製キャリバーの需要が高まり、次に時計を時間通りに納品することが困難になることが深刻な問題となりました。
CPCPの生産には多くのサプライヤーが関与し、組み立ても様々な場所の工房で行われたため、全体のプロセスはかなり複雑でした。
そのため、すべてが常に時間どおりに納品されるわけではないため、ボトルネックが発生しました。
製造工程を完全に管理するには、すべてを自社で一か所で製造するという唯一の解決策がありました。しかし、カルティエには当時、まだ本格的な製造工場がありませんでした。
CPCPの販売期間の間、カルティエはラ・ショー・ド・フォンに 30,000 平方メートルの工場を建設するとともに、ジュネーブに工房を建設することに尽力しました。
後者は規模は小さいものでしたが、カルティエがジュネーブシールに準拠したムーブメントを製作できるようになるため、同様に重要なものでした。
この結果、2009年以降は、カルティエの自社製造ムーブメントを搭載した「オートオルロジェリー」コレクションが展開し、CPCPコレクションの終了につながりました。
CPCPのデザイン
通常モデルとCPCPの違いはいくつかあげることができます。
・文字盤に「Cartier Paris」の表記が2段の表記で印字されています。(サントレを除く)
・キャリバーにはカルティエのダブルCのロゴが彫られています。
・文字盤はシルバーダイヤルで統一され、ギョーシェ掘りが施されています。
中央から広がる花模様のギョーシェ文字盤の美しさはCPCPならではです。
・ケースの素材は、イエローゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールド、そしてプラチナのみの貴金属で統一され、スチール素材は使われませんでした。
・裏面にはモデルごとの個別の製造ナンバーが彫られました。
・付属の箱や書類にも細部にこだわりがみられました。箱には「コレクション プリヴェ カルティエ パリ」のサインが入りました。
また、付属品には、一部モデルですが、通常の冊子等のみならずルーペや携帯用ポーチが付いたものもあり、より高級感を演出しました。
主要モデルの紹介
タンク アメリカン
タンクアメリカンの誕生は1989年と比較的新しいですが、その原型となったサントレのモデルとなると、誕生は1921年となります。
1989年、タンクサントレと比べて手頃でより男性的なバージョンとなることを目指して、タンクアメリカンは、クォーツを搭載して発売されました。
サントレの細長いケースが、より存在感のある厚くて幅広のアメリカンに置き換えられた形です。
その後1993年に機械式のタンクアメリカンが発売されました。
1998年に CPCPの一部となったタンクアメリカンは、高品質のピアジェ製キャリバー430MCを搭載しました。
CPCPのモデルでは、プラチナと18Kイエローゴールド素材のモデルが発売されました。
タンク シノワーズ
シノワーズは1922年にオリジナルのモデルが発売されています。
シノワーズとは「中国の」という意味合いであり、ケースのデザインは、中国の寺院をイメージして作られました。
幾何学的な柱が組まれた楼閣を思わせるような、オリエンタルな雰囲気を漂わせます。
ケースの水平と垂直に組み込まれたラインが重なり合い、他のタンクシリーズとは違ったユニークなデザインです。
シノワーズのCPCPはプラチナとピンクゴールドの2種類の素材が発売されました。
サイズはオリジナルのものよりわずかに大きい程度で、形状に関しては基本的にオリジナルに忠実です。
ムーブメントには、ピアジェの手巻きキャリバーCAL437MC を搭載しています。
タンク バスキュラント
タンクバスキュラントのオリジナルは1933年に発売されています。
バスキュラントのケースは反転する構造となっています。これはもともと、ポロのプレーヤーが試合中に時計を保護するために設計されたためです。
個体の保護と、デザインの斬新さの両方を兼ね備えたバスキュラントは、CPCPの発表と同時にコレクションに入りました。
タンク オビュ
オビュとは、フランス語で砲弾を意味します。
オリジナルは1925年に作られたラグが砲弾の形をしたモデルで、正方形のケースにローマ数字を合わせたカルティエらしいデザインです。
例えば、写真のモデル Ref.W1527551 は、
ピアジェ製のキャリバー430MCを搭載し、薄型で視認性もよく、機能的なデザインです。
タンク サントレ
タンク サントレは1921年にタンクのバリエーションとして発表された伝説的なモデルです。
サントレとは、フランス語で”湾曲”を意味し、その名の通り、タンクを腕に沿うように縦に伸ばした曲線的なフォルムです。
腕時計に、単に腕に巻き付ける実用的な道具以上のものであるという、新しい見方を生み出したモデルといえます。
サントレはCPCPの中でも異色の存在であり、文字盤は伝統的なローマンインデックスのモデルの他に、アラビック数字のモデルや、ローマンダイヤルと漢数字のデュアルタイム表示などのバリエーションが存在します。
また、「CARTIER PARIS」の表記も、サントレのモデルによっては2段組ではなく、12時と6時の位置に分かれているものがあります。
タンク ルイ カルティエ
オリジナルは1922年にされ、ルイ・カルティエ本人も着用したことでも知られています。
戦車をモチーフとするその直線的なラインや、カボションリューズ、ローマンインデックスは今に至るまで引き継がれる重要なデザインとして残っています。
CPCPコレクションでは、プラチナと、18Kイエローゴールドのモデルが登場しました。
どのモデルも薄型のケースデザインで展開され、フレデリック・ピゲ製のキャリバー21が搭載されました。
特にプラチナのモデルは生産数が少なく、150本以下ともされています。
タンク アビス
アビスのデザインの原型は、タンク・エタンシュとされます。エタンシュは「防水」の意味を持ちます。
特徴的なベゼル構造を持ち、4つの角に埋め込まれたネジがデザイン上のアクセントとなっています。
サイズが大きくベゼルが厚いため、クラシックなテイストと現代的なテイストのバランスが取れています。
タンク・ア・ビスのデュアルタイムは2つの文字盤がかさなっているのが特徴で、サントレのものとは異なり、同じムーブメント、同じリューズで操作します。
タンク ア ギシェ
タンク ア ギシェのオリジナルは1928年に発表されました。ア ギシェはアビスの派生モデルとなります。
フランス語で「窓」を意味するギシェは、ユニークな外観を持つモデルです。
クラシックなタンクのケースデザインを持ちながら、ジャンピング アワーとジャンピングミニッツを搭載し、スクエア型のレイルウェイインデックスは窓の形を想起させます。
タンク アシンメトリック
CPCP シリーズの中でも最も冒険的なモデルの1つとして、よく説明されるタンクアシメトリックは、長年コレクターの心をとらえてきたカルティエのクラシックなデザインです。
当初はタンク オブリークと呼ばれでおり、1936年に運転中のドライバー向けに考案されました。平行四辺形のケースには斜めに傾斜した文字盤が付いており、ハンドルに手を置いたときに文字盤が垂直に向くようになっています。
後にタンク アシメトリックと改名され、様々な形状が採用され、両端のラグの数も変動しました。
CPCPのモデルとしては、プラチナのモデル100本、イエローゴールドのモデル300本が生産され、ピアジェ製キャリバー9P2を搭載しました。
また、CPCPの3年前、1996年に300本限定で限定モデルが発売されており、こちらもCPCPと似たデザインを持っています。
トノー
オリジナルは1906年に遡ります。
カルティエの腕時計としては、2番目に当たるシリーズとなります。
トノーはフランス語で”樽”を意味し、腕に沿うように湾曲された細長いケースが特徴的です。
CPCPのシリーズではデュアルタイム表示のものも存在し、GMT機能と同じように二カ国の時刻を表示させられます。
パシャ
CPCPパシャのトゥールビヨンモデルが複数モデル製作されていますが、それぞれ5〜30個程度しか生産されておらず、どれもが希少な個体とされています。
1998年に発売された最初のトゥールビヨンモデルでは、ブルースティールの針、精巧な手彫りの文字盤に加え、ローズゴールドの文字盤の大部分を占めるカルティエの象徴的な「ダブルC」ロゴが特徴です。
1999年のリリースでは、より従来的な文字盤のデザインとなり、トゥールビヨンムーブメントの上にパシャの特徴的な四角いレイルウェイトラックのような形のブリッジが採用されました。
また、同時期に発表されたパシャ ナイト&デイは
短針と長針で、午前・午後に分かれたダイヤルを示す独特のデザインが特徴的です。
Ref.W1528451 / 2000年前後
Ref.W1528251 / 2000年代
サントス ドュモン
オリジナルは1911年に誕生しました。カルティエの中でもっとも古くからコレクションとして残っているシリーズで、最も成功を収めた紳士用腕時計とも言われています。
ブラジルの飛行家のアルベルト・サントス・デュモンの「飛行中に操縦桿を離さず時刻を見たい」との願いから、レザーストラップをつけた腕時計を作ったことから始まりました。
いわゆる初の男性用腕時計ともされます。
その歴史はタンクよりも古く歴史を感じさせます。
CPCPでは、プラチナ製とイエローゴールド製のサントス・ドゥモンが製造されました。
有名なモデルとしてはサントスデュモンW1542352の18KYGモデルがあります。
ロンド ドゥ カルティエ
ロンドとは、フランス語で”丸い”を意味しています
ローマンインデックス、レイルウェイインデックス、ブルースチールの針などのカルティエのデザインコード全般を、ラウンドの形状に落とし込んだモデルです。
ムーブメントにはピアジェのキャリバー430MCを搭載しています。
Ref.W1542751 150本限定 / 2004年
トーチュ
オリジナルは1912年に発表され、亀を意味するトーチェの名の通り、直線と曲線のラインが美しいデザインで構成されています。
円形の文字盤が主流だった時代にデザインされたトーチュの独自性は、2024年の現在でも復刻版として引き継がれています。
さらに2024年、トーチュは新作として5点の商品の販売が予定されています。
CPCPにおけるトーチュ モノプッシャー(モノソプワールとも表記される)は、ホワイト、イエロー、ピンクのゴールドで発売され、THAエボーシュ社が開発した手巻きキャリバー045MC を搭載していました。
また、パワーリザーブ、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダーなどの複雑機構を備えたモデルが存在しました。
トーチュはCPCPの中でも最も人気のあったモデルといわれています。
クロッシュ
クロッシュはフランス語で「鐘」を意味します。
クロッシュの初出は1920年となります。平面に置いたときのフォルムがベルを思わせたため、クロッシュ・ドゥ・カルティエと名付けられました。
文字盤が90度回転した状態となっており、リューズが12時位置についている独特なフォルムです。
時刻を見る時に手首を近づける必要性がなく、実用性も兼ね備えたモデルです。
CPCPの直前、1995年に200本限定で発売されたモデルもあり、ギョーシェダイヤルで見た目もほぼ同じですが、”Cartier”と”Paris”が離れて印字されているという違いがあります。
CPCPのその後
カルティエは2008年にコレクション・プリヴェ・カルティエ・パリの製造を中止しましたが、
2017年に「プリヴェ」コレクションとして再編し、毎年1つの歴史的なモデルに焦点を当てています。
2024年はトーチュの年となり、いくつかの限定版をリリースします。
CPCPは、カルティエの歴史における一つの転換点となりました。CPCPの10年間にわたる展開は、カルティエの取り組みに価値を見出した顧客を喜ばせました。
今日では、象徴的なデザイン、高品質のムーブメント、数量限定という特徴を兼ね備えたCPCPの作品が、コレクターによって再評価されています。
消費者の好みの時計が進化するのにしたがって、カルティエが残してきた永続的な遺産が、これからも評価されるのを見ることができるでしょう。
この記事を書いた人-
SY
イリスラグジュアリー新人時計ライター。
ブランドの歴史を研究中。