オメガの歴史
スピードマスターとシーマスターの歴史から読み解く「ギリシャの竪琴のケース」のアイデンティティとは
数多くの冒険家の信頼に応え、世界中のコレクターを常に魅了し続けるオメガ。
特に、オメガ史の中でも渾然と輝くのが、宇宙飛行での計時機器として選ばれたスピードマスター、海洋探検や有名なジェームズボンド映画シリーズとの関連性で知られているシーマスターの2つのコレクションです。この2つの傑作をひもときながら、オメガがどのように、世界で最も名声のある時計ブランドの1つとしての地位を確立していったのかをたどってみようと思います。また、特徴的なケースデザインの由来も調査したいと思います。
スピードマスター
時計界のアイコンとも呼べるオメガ スピードマスターは、宇宙探査との関連性、特に、NASAのアポロ計画中に月面で着用された初の時計としての役割で世界的に知られるようになりました。
1957年にレーシングクロノグラフとして誕生したスピードマスターは、NASAが宇宙飛行士のミッションに同行する時計を探し始めた1960年代初頭に運命を大きく変えることとなります。NASAが行った宇宙飛行のための厳格なテストは、極地的な高温、低温、蒸気や粉塵、気圧の変化への耐性を調べる過酷なものでしたが、10社程の時計が集まる中、オメガのスピードマスターだけが、クロノグラフの機能を保持したまま稼働し続けたと言われています。
初代のスピードマスターのケースはリューズガードのないソリッド感あふれるスポーティで、やや小ぶりなケースデザインでした。
1965年にオメガはスピードマスターの第4世代を発表します。
象徴的な非対称ケース、ブラックの文字盤、手巻きcal.321のムーブメントを搭載したこのモデルは、現在私たちが一般的にムーンウォッチを連想するものです。
このモデルの最大の違いはケースにあります。「ギリシャの竪琴のケース」とも称される、リューズとクロノグラフのボタン側が流れるようなケースデザインの保護を目的とした左右非対称のケースが初めて採用されました。
一方、1962年に発表されたジェラルドジェンダのデザインしたオメガコンステレーションの「Cライン」は、流れるようなケースデザインが特徴でしたので、この特徴をスピードマスターの4thモデルが備えているようにも感じます。
従来の樽型の形状に、他のクロノグラフにはないリュウズガードが備わったデザインは、左右非対称ながら機能的にも審美的にも優れており、今やオメガの時計の象徴となりました。
竪琴のデザインになることで堅牢性も増し、その流線形の見た目も、オメガのブランドイメージを根強く印象付けるものとなりました。
そして、後のデザインのスタンダードとなり、オメガにおける重要なデザインの転換期になったモデルと言えるでしょう。
この第4世代で、ほぼ現行モデルのデザインは完成され、以降のスピードマスタープロフェッショナルのモデルに踏襲されていきます。
50年間もの間、ケースデザインが変わらず、一つのオメガらしさとして世界的に認知され現在に至ります。
現行のデザインも、オメガらしさを受け継いでモデルが発表されていることは、特筆すべきことでしょう。
1969年7月20日、宇宙飛行士バズ アルドリンがアポロ11号から降下する際にスピードマスターの第4世代を着用し、月面に到達した最初の時計となったことは有名です。ニール・アームストロングは、バックアップタイマーとしてスピードマスターを月着陸船内に残しました。
スピードマスターは、アポロ13号を含むその後のアポロ計画でも使用され続け、宇宙船が安全に地球に帰還するのに役立つエンジン燃焼のタイミングなどに重要な役割を果たし続けました。
このようなことから、宇宙探査という人類史上に残る挑戦に向けて、操作性と耐久性を維持しながらデザイン性を維持した、特徴的なスピードマスターの「ギリシャの竪琴のケース」は、オメガの挑戦の歴史の証、他社モデルにはない唯一のアイデンティティとして、これからもその形を残し続けていくことになるでしょう。
シーマスター
時を同じくしてシーマスターもまた、名高い歴史的なコレクションとして誕生しています。
オメガ シーマスターは、ブランド創立100周年にあたる1948年に誕生しました。
当初はレクリエーションダイバー向けの堅牢で耐水性のある時計として設計されましたが、すぐにプロフェッショナルなダイビング時計へと進化していきました。そして年月をかけて継続的に、耐久性と潜水能力を強化したモデルを発表していきました。
本格的なダイバーウォッチとしての伝統の基礎を築いたモデルは、1957年のシーマスター300です。プロのダイバー向けに設計されており、最大300メートルの耐水性を持ち、逆回転防止ベゼルを備えています。ケースバックには象徴的なシーホースが彫られ、世界中で有名なトレードマークとなりました。
初代シーマスター300の成功を受けて、1964年に第2世代を発表します。
シーマスターはこの世代から、左右非対称の「ギリシャの竪琴のケース」を採用します。ケースサイズは42mmと余裕があり、夜光塗料のマークが5分毎に施されたベゼルは、水中での視認性を向上させました。
1993年に発売されたシーマスタープロフェッショナルダイバー300Mは、ヘリウムエスケープバルブとコーアクシャルエスケープメント技術を備えた、コレクション内で最も有名なモデルの1つです。竪琴型のケース、文字盤の波型模様と、一目見てそれがシーマスターだとわかる特徴的なデザインを持ったこのモデルは、ダイビングにも日常使いにも問題なく対応した人気モデルとなりました。スピードマスターと同じくオメガのアイデンティティとして確立された特徴的な竪琴型のケースは、その後の現行のモデルまで引き継がれています。
精度と最新テクノロジー
オメガの正確な計時は、歴史的に重要な出来事とのかかわりあいも持ちます。
1932年のロサンゼルスオリンピックでは、公式計時として国際的に認められることとなりました。これがオリンピックとの長い付き合いの始まりとなり、その後も、光電池や初の電子計時システムなどの技術革新をスポーツの世界に導入しました。
1999年、オメガはコーアクシャル エスケープメントを導入しました。オメガのコーアクシャル エスケープメントは、ムーブメントの摩擦を軽減し、精度を向上させ、整備間隔を延長するように設計された技術です。およそ250年ぶりの脱進機の革新となり、時計製造における大幅な進歩となりました。オメガの長期的な信頼性にも貢献しています。
ジョージ・ダニエルズ博士
2015年には、スイス連邦計量研究所 (METAS) と提携し、精度と耐磁性を保証する独自の認定規格、マスタークロノメーターも導入しました。 この認定を受けた時計は、精度や耐磁性、耐水性、パワーリザーブなどの一連の厳格なテストを受けます。そして、さまざまな条件下でも問題なく稼働することを保証します。
このようにオメガはその歴史を通じて、精度、時代を超えて親しまれるデザイン、最新テクノロジーへの取り組みを一貫して示してきました。
こういった企業努力により、スイスの名門時計ブランドとしての地位を確固たるものにしています。
この記事を書いた人-
SY
イリスラグジュアリー新人時計ライター。
ブランドの歴史を研究中。