独立時計師特集【第2回】監修:藤野

100年先に残るものを探す
100年後も残る時計とはどういったものになるでしょうか。
そもそも、ゼンマイ式の機械式時計は本来、メンテナンスをし続ければ、一生涯使える道具であるはずです。
例えば、アンティークウォッチ店では、100年前に作られた時計が、今もなお稼働し、時を刻み続けています。
これらの時計は、今後、数を減らすことはあっても、増えることは基本的にはありません。
その昔、時計は職人が一つ一つの部品を手作業で作っていました。
部品の一つ一つが頑丈なつくりをしており、一つの時計に仕上げるために、それらの部品を少しずつ調整しながら組み立てられました。
そのため、部品が破損、摩耗した場合、復元して元通りにさえできれば、また動かすことができるわけです。
しかし、現代の時計製造においては、より効率性を重視した、機械による製造方法をとらざるをえないため、修理部品の製造をやめてしまった場合、製造元のメーカーですら修理不可になる可能性があるのです。
時計のつくり方そのものが変わってしまったため、100年先に残るアンティークウォッチを探すというのは、今後より困難になっていくと思われます。

/ 1900年前後

ポケットウォッチ クロノメーターロワイヤル
/ 1910年前後
企業がお客様と一緒に歩むこと
例えば私たちがこの先、数十年で亡くなったとしても、時計メーカー自体は多く残るとは思います。
しかし、時計自体がこの先、100年以上生き続けるかというと、これは並大抵のことではありません。
後世まで顧客の方と歩み続けられる企業となると、しっかりとしたアフター体制の整ったメーカーとなりますので、やはりパテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲといった3大ブランドに集約されていくのではないでしょうか。
例えば、パテック・フィリップを例に挙げさせて頂くと、パテック・フィリップには、基本的に「修理できない時計が無い」というポリシーがあります。
自社製品であれば年代にかかわらず、半永久的に修理をするとメーカー自ら明言しているのです。
必要であれば設計図から部品を一から作り、修理に多少の費用や時間がかかるにせよ、必ず修理してお客様にお返しするわけです。
このようなポリシーが無い限り、100年先に残る時計は存在しえ無いと言っていいでしょう。

/ Ref.2526

/ Ref.96
100年先に残る時計 その基準
100年残るブランドというものは、結局のところ「アフター」の手厚さが一つの基準となるでしょう。
例えば、フィリップ・デュフォー氏が作る”シンプリシティー”は、自身が亡くなったあとでも、どんな職人でも手入れできる設計になっているともいわれます。オーバーホールは特別な手法で人の手で丹念に行われ、高精度のパーツ仕上げによって数十年の金属摩耗にも耐えうるようになっているため、子や孫の代まで末長く継承していく製品となっているのです。
また、独立時計師のベアト・ハルディマン氏は、インタビューの中で、コンピューター制御の機械で今日の時計製造を続けていくと、いつか何かを失ってしまうかもしれないとおっしゃっています。
そのため、ハルディマン氏は、あえて昔ながらの機械を用いて、手作りの方法で今も時計を作っています。
そして、ハルディマン家が制作した時計の、全てのアフターサービスを今でも受け持ち、また自らも過去に制作した時計を買い戻し収集しているとのことです。
このポリシーは、いずれ後継者へと引き継いでいくとされています。
こういったポリシーを持つブランドでないと、100年先を見据えた時計製造といった点では難しいのではないかと思います。
そして、お客様と時計師の関係性を長いものにする、継承していくことにつながるのではないでしょうか。


藤野の考え
現在のブランドで、100年を経過している時計を取り扱うブランドは多くはありません。
昔ながらの機械を用いて手作りで、一から時計を製造した場合、一般的には年間生産数は30個くらいになってしまうそうです。
このことから、今のブランドがいかに時計を大量生産しているかということが分かります。
大量生産するメーカー、時計が決して悪いことではありません。ユーザーの使用目的、価値観がその時計と合致していれば良いと思います。
スイスをはじめとする国々で多くの「独立時計師」が誕生し、昔から続く道具や技術を使う工房が出てきたのも、機械生産に頼らない、永く残る時計を作りたいという思いからでしょう。
一方で彼らは若い有能な時計師たちにスイス伝統のものづくりを継承する使命感に満ちています。我々もアンティーク時計、ヴィンテージ時計の価値を正しく理解し信頼できる時計師にきちんとメンテナンスを依頼し次の世代に伝承していく責務があると考えます。

1985年設立(スイス)
~第3回に続く~

この記事を書いた人-監修
藤野
シェルマンを定年退社した元店長
製薬会社の研究開発からこの業界に入り、お金持ちにオールドパテックを売りまくる。
時計愛を拗らせてパテックからオメガやセイコーのデジタルウォッチまでこよなく愛する哲学者。
最近は昭和ノスタルジーとセイコーと愛犬のウィリアムに思いを寄せる

この記事を書いた人-
SY
イリスラグジュアリー新人時計ライター。
ブランドの歴史を研究中。