「トリプルカレンダー&トリプルムーン」の魅力:藤野のリコメンド【第5回】
「トリプルカレンダー&トリプルムーン」の魅力を考察します。
ここではクロノグラフ機能が付加されたものは除外します。
個人の感想ですが一番美しい「トリプルカレンダー&トリプルムーン」は60年代までと思います。それはなぜでしょうか。
機械式カレンダーには何世紀にもわたる長い歴史があります。
永久カレンダーの懐中時計は1762年にトーマス マッジによって初めて作られました。その後、腕時計に搭載されたのは1925年、コレクターのトーマス=エメリーの依頼でパテック フィリップによって製造されました。
1920年代に、オーデマピゲは日付を針で表す「ポインターデイト」と、曜日と月が小窓で並ぶトリプルカレンダーのデザインの時計を発表しました。
視認性に優れたポイント表示と、デジタルのように並んだ日付、曜日表示は非常に見やすく、昨今まで様々なブランドに採用され、トリプルカレンダーのクラシックデザインとして受け継がれています。
1940年代はより多くのブランドが腕時計にこのトリプルカレンダーの技術を採用し、生産されました 。
ヴァシュロン・コンスタンタンのRef.1942、Ref.1948といった、近年復刻版が発売されたトリプルカレンダーのモデルが登場したのもこの時代です。
また、初期のホイヤー ダトグラフ、ジャガー ルクルト トリプルカレンダー、オメガ コスミックのモデルなどが挙げられます。
60年代までのトリプルカレンダー&トリプルムーンは、ケースの大きさが大きくても33ミリ前後で、サイズ感がちょうど良く、文字盤の色使いも鮮やかです。
何よりも「時計は小宇宙」なんです。トリプルカレンダー ムーンフェイズの時計は「時」の要素を全部腕にのせているわけです。
例えば、月齢表示は満月の夜は狼男がでるとか、精神科のお医者様が活用したり満潮時に出産が多い、漁師さん、船舶関連の方々も大潮、小潮を参考にしていたと言われます。また兵庫県警が交通事故の発生と月の満ち欠けに相関関係があると発表しています。「交通事故予防カレンダー」をご参照ください。
そういった時に関する情報が全て詰め込まれた複雑時計が「トリプルカレンダー&トリプルムーン」であり、眺めているだけで、時に関する情報を手に乗せているようなロマンが感じられます。
近年は、いわゆるこの「トリカレ」のモデルが再注目され、モダンなモデルに取り入れられることも珍しくなくなってきました。
私が注目するトリカレのモデルを挙げてみました。
MOVADO モバード
スイスのラ・ショード・フォンでアシール・ディーテシャイムが創業したモバードは、”たゆまぬ前進”を意味する社名の通り、独創的なミュージアムウォッチをはじめとした高い技術力を誇る老舗の時計メーカーです。
モバードの制作したトリプルカレンダーRef.14950カレンドマチックには、防水ケースメーカーの最高峰として知られたスイスの「フランソワ・ボーゲル」社製の防水ケースが使用されました。
カレンドマチックは1948年〜1954年まで生産され、ハーフローターの自動巻きムーブメントでトリプルカレンダーを備えた、個性的な文字盤のモデルです。手巻きモデルのカレンドグラフはスモールセコンド仕様でまた雰囲気がよりアンティーク感が漂います。
Zodiac ゾディアック
1882年にスイス・ルロックルにてアリスト・カラムが創業した時計の工房を原点にもつ、ゾディアックのトリプルカレンダームーンフェイズです。
ゾディアックのトリプルカレンダームーンフェイズは、2時、4時、8時、10時位置にそれぞれ各カレンダーの早送り機能が付いた多機能な複雑時計です。
ブラックダイヤルのモデルにムーンフェイズが付く物も多く、デザイン性に秀でた逸品です。
SSケースにブラックダイヤルは人気のようです。
MOVADOに比べて34mm程度と大ぶりです。
JaegerーLeCoultre ジャガールクルト
1833年創業のジャガー・ル・クルトは、ムーブメントから自社で一貫製造を行う数少ないスイスのマニュファクチュールの一つです。
ルクルトのトリプルカレンダー ムーンフェイズは小ぶりのレクタンギュラーが有名です。
そのモデルの一つ、「レベルソ」は、ケースが反転する構造になっており、スポーツをする際などに文字盤を保護するためケース表面を替えることができます。また、シースルーバックから美しいムーブメントを見ることができます。
OMEGA オメガ
コスミック トリプルカレンダー ムーンフェイズ は、OMEGAの創立100周年を記念して作られた希少なモデルです。1947年〜1950年代半ばまでのわずかな期間期間に製造されていました。
スチール、14K、18Kのモデルとあり、トリプルカレンダームーンフェイズに加え、ポインターデイトを搭載します。
18Kの37mmケースのモデルは市場に出回ることも少ないモデルとされています。
Patek Philippe パテックフィリップ
清朝最後の皇帝「溥儀(ふぎ)」が所有していた「インペリアル・パテック フィリップ」
プラチナ製Ref.96 Quantieme Lune が話題となりました。
世界に8点しか存在しないとされるモデルです。
2023年には香港のオークションにて620万ドル、日本円にしておよそ8億5800円にて落札されています。
時計の文字盤の素材を調べる為に、溥儀が使用人に文字盤の下半分を削らせその素材が真鍮であることが分かり作業を中止させたため、独特な表面を今に残しています。
★国産のトリプルカレンダー
国産初のトリプルカレンダーは戦後間もない1952年にシチズンから発表されました。
アップライドインデックスにカンパニーロゴ「C」でカレンダーの小窓も同素材で縁取りもされています。また長針の先端もカーブさせているところは当時のスイスの時計の物作りに影響されていると思います。
搭載されているCal.59は手巻きロービート(5振動)です。
発売当時の大卒初任給が3,000円に対しこの時計は4,170円~5,370円で販売されていたそうです。
国産時計ファンの方、トリカレファン、ロービートファンの方にお勧めの一本です。
2ndモデルからは英語表記のものも作られました。現行品ではサイズアップされたものがほとんどとなっています。
今回は、トリプルカレンダー&トリプルムーンの魅力に迫ってみました。
アンティークの時計屋さんで手に取って見れる機会があれば、ぜひ一度見てみてください。なおカレンダー修正を行う場合は夜の8時くらいから明け方4時くらいまでの時間帯で行わないでください。(カレンダー関連の歯車が徐々に絡み合う時間帯ですのでそこで早送りをすると歯車の欠損につながります。)また「月」は月末から月初に自動で送らないものもありますのでご確認ください。
ただ、時刻を刻むだけではない、腕時計の可能性に触れる機会になると思います。
それでは、また次回まで。
この記事を書いた人-
藤野
シェルマンを定年退社した元店長
製薬会社の研究開発からこの業界に入り、お金持ちにオールドパテックを売りまくる。
時計愛を拗らせてパテックからオメガやセイコーのデジタルウォッチまでこよなく愛する哲学者。
最近は昭和ノスタルジーとセイコーと愛犬のウィリアムに思いを寄せる