デコラティブな時計は美しい:藤野のリコメンド【第6回】
アールデコ芸術と時計
1930年代のレディースの時計は本当に美しいですね。
素材の多くはプラチナ。よく見ると細かい彫刻が時計の側面まで施されています。
今から見ればムーブメントの完成度は高くありませんが当時の技術の結晶です。
カルティエですと裏蓋はあえて18KYGにして時計本体のプラチナと硬度が違う組み合わせで気密性を高めようとしたところも素晴らしい点です。
ダイヤをあしらった時計はまだ照明が十分でないときに如何に光らせるかということでローズカットのものが多く、サファイアも鮮やかなブルーのものに出会えます。
また裏蓋に刻印のあるものもありますが、私のお客様が「今、自分がこの時計を手にするまでのドラマを自分なりに想像するのが楽しい、また拡大鏡で彫刻された部分のエッジ裁きは素晴らしい」とおっしゃいました。
当然、アンティークは誰が使ったかわからないのが嫌だとのお客様もいらっしゃしますが、どちらも正解です。
写真のモデルは1920年代、ティファニーのアンティークウォッチです。
ティファニーらしいロイヤルブルーのサファイアとアールデコ様式の繊細な装飾が施された時計は、とても上品でスマートな雰囲気です。
ケースのふち部分には、ミル打ち加工がなされ、当時の特徴の一つでもある彫刻の入ったリュウズもしっかりと残っており、手間暇のかかった大変珍しい個体です。
文字盤のティファニーの文字が楕円形に配され、ブルースチール針は上品な雰囲気を醸し出します。
この時代は、各々の貴族にお抱え時計師がいて、競って素晴らしいものを見せ合っていた時代でもあり、現在のようにコストを気にしない良い時代でした。
「見せる、魅せる、見る=Watch」なんですね。
100年前の時計ですが、ブルースチール、手書きの文字盤、ギョーシェダイヤルなど、現代では超一流ブランドでしか作ることのできない工芸品のような時計が、アンティークならまだまだ手が届きます。
次にご紹介するのが、ティファニーのために作られたミドー製の時計です。
アールデコ様式の繊細な装飾が施されており、上品で可愛らしい印象です。エナメル時計の中でも、別格の美しい時計です。
1920年代当時の特徴でもあるケースサイドの月桂樹の彫刻、ミル打ち加工のレクタングルデザインがはっきりと見られます。
こちらは、1920年代のアールデコの影響を残すフランクミュラー ロングアイランドの2004年発売限定モデルです。
1920年代に流行したレクタンギュラーのケースに現代的アレンジを加えて、ニューヨーク州マンハッタンからロングアイランドへと架かる橋をイメージしてデザインされたと言われています。
文字盤やケースは横から見ると緩やかにカーブして、アールデコのスタイルが反映されています。
次にご紹介する カルティエ ヴァンドーム は、いわゆる馬車のアタッチメントをモチーフにした独特なデザインのモデルとは異なり、ラウンド型のケースが特徴的な、1980代に発表されたハイジュエリーウォッチのコレクションの一つです。
販売当時は約1千万で発売されており、最高級のダイヤモンドを使ったモデルを発表することでブランドに新しい価値を見出すための、一作品となったものです。
従来のアールデコの流れを踏襲しながらモダンなスタイルにリデザインされており、より洗練された印象です。
まだまだアールデコの影響を受けた時計はございますが、今回のご紹介は以上です。
アンティークショップに行って、細かい装飾の施された時計が見つかったら、ぜひチェックしてみてください。100年間の歴史と、職人の息吹を感じることができるはずです。それではまた。
この記事を書いた人-
藤野
シェルマンを定年退社した元店長
製薬会社の研究開発からこの業界に入り、お金持ちにオールドパテックを売りまくる。
時計愛を拗らせてパテックからオメガやセイコーのデジタルウォッチまでこよなく愛する哲学者。
最近は昭和ノスタルジーとセイコーと愛犬のウィリアムに思いを寄せる。