IWCの歴史
IWC
ムーブメント開発から外装設計まで高度な技術力で支える時計製造のエンジニア集団
IWCの歴史・手作業の時計作りの工業化
【フロレンティーン・アオスト・ジョーンズ】
IWCは、International Watch Companyの略で、スイスのシャフハウゼンに本拠を置くスイスの高級時計メーカーです。
1868 年にアメリカ人技術者、フロレンティーン・アオスト・ジョーンズによって設立されたIWCは、精密工学、革新的なデザインで高品質の時計を製造してきた、豊かな歴史を持っています。
IWCはスイスの時計企業の中でも異色の地に会社を持ちます。
IWCは、1868年以来、北部のチューリヒから車で40分程のシャフハウゼンで製造を続けてきました。
なぜこの地にインターナショナル・ウォッチ・カンパニーが設立されたのでしょうか。
1860年代、アメリカでは、時計生産の分野において、機械によって互換性のある部品を作り組み立てるという大量生産方式がとられていました。
極小の部品が多い時計製造に転用するには時間がかかったものの、19世紀終わりには、アメリカは高精度時計の大量生産方式を確立し、製造方式に置いてスイスと大きな違いをつくりました。
アメリカ市場に向けて高品質の時計を作りたいという夢を抱いたボストン出身の優秀な時計師、フロレンティーン・アオスト・ジョーンズは、スイスに可能性を求めてアメリカを旅立ちます。
スイス北部にあるシャフハウゼンは、中世の絵のような美しい町で、ドイツから川を渡った場所にあります。
当初、時計製造の要であるスイスの西部地域の時計師と職人達はアメリカ人を歓迎せず、アメリカ式の製造方法は受け入れられませんでした。
そこに救世主として現れたのが、シャフハウゼンにライン川の水力を利用して発電所を開いた、ヨハン・ハインリッヒ・モーザーでした。
モーザーの指導のもと、ライン川の水力により、時計部品の製造に必要な重機を稼働させるための継続的な電力を得ることができるようになりました。
さらには、ムーブメントの設計を簡素化し、大量生産を容易に、より安価に製造できるようにすることで、アメリカ市場で販売する懐中時計用の最高品質のムーブメントを大量に製造できるようになりました。
モーザーとの出会い、そしてライン川の流れが無くてはIWCが誕生することはありませんでした。
こうして、比較的大量の高品質の時計を、正確に同じ公差で社内で製造するというジョーンズの計画により、シャフハウゼンの町で作られた時計が世界中で有名になることが可能になりました。
ジョーンズは最終的にアメリカに戻り、IWCはシャフハウゼンの実業家ラウシェンバッハ家、特にヨハネス・ラウシェンバッハに引き継がれました。
そして、ヨハネスの死後、ラウシェンバッハ夫妻に代わって IWCの経営を務めたエルネスト・ヤコブ・ホンベルガーのリーダーシップの下で、ブランドの最も象徴的な2つのコレクション、パイロットウォッチとポルトギーゼが誕生しました。
【アルバート・ペラトン】
1944年、アルベルト・ペラトンが、IWCの技術責任者に就きました。
後に“IWCの頭脳”と称えられるクルト・クラウスに、技術を叩き込んだ上司でもあった時計界の偉人です。
ペラトンはIWCに黄金期をもたらしまします。
高精度のムーブメント、キャリバー89や、ムーブメントを磁場から守る軟鉄製のインナーケースなど、数々の発明を生み出しました。
また、非常に効率的な双方向巻き上げ式自動巻き機構も彼の開発によるものです。
こちらは彼の名を冠して、「ペラトン式自動巻」と呼ばれるようになりました。
ペラトンの設計は基本的に、より頑強に、高精度に、そして生産性の高さを追い求める現実主義的なものでした。
それは、ペラトン以前のIWCが、ジュネーブの高級時計を思わせる華麗なムーブメントを輩出しようとしていたのとは相反するものでもありました。
完璧主義者としても知られていたペラトンは1966年にIWCを退職するまで、満足できないプロトタイプはライン川に投げ捨てて、最初からやり直していたといいます。時計に対する妥協なき情熱が、後世にも継がれる傑作機構を生み出したといえるでしょう。
ところで、IWCとパテックのムーブメントは似てると思いませんか。
その理由は、アルバート・ペラトンとパテックの技術部長、ジャン・フィスターが同じような時代にジュネーブで時計技術を学んだからだと思います。
ジャン・フィスターもまた、ペラトンと同じく、現代のキャリバーの基盤を作った時計師です。
1932年に発表された、カラトラバ ref.96に搭載された、「キャリバー12-120」はジャン・フィスターの下で開発された最初のムーブメントでした。
「キャリバー12-120」は1934年から1973年の30年間に渡って製造されました。
ジャン・フィスターは自社開発の腕時計専用ムーブメントの創作に力を注ぎ、キャリバーの開発に次々と成功し、その結果として、パテック フィリップの工房から時計史にその名を刻む数多くの傑作が世に送り出されました。
【クルト・クラウス】
アルバート・ペラトンの思想を現代に受け継ぐIWCの名設計者、クルト・クラウスは、スイスの時計業界に多大な影響を与えました。
ゾロトゥーンの時計学校を出た後、1957年からIWCに入り、伝説的な時計職人アルバート・ペラトンのもとで働きました。
クラウスはマークXIの設計などに携わったペラトンに密接に関わりました。
1980年代、クラウスは機械式時計が再び注目を集める最善の方法は技術開発だと判断し、パーペチュアルカレンダーの開発に着手しました。
1985年に発表された「ダ・ヴィンチ パーペチュアル クロノグラフ」は、IWCにとっての大きな転換点となりました。
一般のユーザーにも手が届く価格で大量生産が可能なように設計され、堅牢製や使いやすさを重点に置いたデザインのダ・ヴィンチは、大ヒットを記録しました。
そして、機械式時計や、複雑機構への関心を復活させることに、大きな役割を果たしました。
2000年には、キャリバー5000の発売において、ペラトン式自動巻き機構を復活させました。
IWCは、1970年に一旦ムーブメントの生産を終えており、久々の自社製自動巻ムーブメントの復活でした。
クルト・クラウスは現在までIWCに残って後進の指導にあたっています。
65歳で退職したにもかかわらず、彼は同社で働き続け、時計製造学校で顧問を務めたり、ブランドアンバサダーを務めたり、いくつかのエンジニアリングプロジェクトに携わり続けています。その姿は、まさにIWCのアイコン的な存在となっています。
2000年に、IWCはリシュモン・グループ傘下に入り、新体制が築かれ、技術力の蓄積が現在まで続いています。
IWCは革新的な時計製作技術で、一貫して業界をリードしてきました。
パイロット・ウォッチやポルトギーゼといった名作コレクション、そして永久カレンダーなどの優れた機能を通じて時計産業に多大な影響を与えてきたIWCは、これからも新たな挑戦と進化を続けることでしょう。
現代のIWC
2023年、IWCはオリジナルのジェンタデザインを現代化させ、インヂュニアを21世紀向けにアップデートしました。
2024年には、ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーで永久カレンダーに革命をもたらしました。
この時計は、月の満ち欠けも正確に表示し、4500万年で1日しかずれません。
これらは、IWCがその豊かな伝統を現代に適応させ、時計製造の歴史を築いた方法のほんの一部にすぎません。
IWCは、堅牢な時計造りを続け、継続的に進化し、未来の創造に専念するという使命に忠実であり続けます。IWCのエンジニアの精神は、過去、現在、未来に対し責任を持ち、それらすべてを形作ることに、積極的に取り組んでいくことでしょう。
主要モデル一覧
IWCの主要なコレクションの概要を次に示します。
- ポルトギーゼ: ポルトガル人船員が航海のために正確な時刻を求めたことから始まったポルトギーゼ。「腕に着けるマリンクロノメーター」。
- パイロット ウォッチ: 今なおロングセラーを続ける、時計界を代表する航空時計のコレクションです。大きくて読みやすい文字盤と、堅牢な構造を備えた頑丈な時計を特徴としています。
クロノグラフ、GMT、計算尺のベゼルなどの機構を備えます。 - ポルトフィノ:美しいイタリアの村ポルトフィノから名付けられたポルトフィノは、洗練された美学を備えたコレクションです。
- アクアタイマー: ウォータースポーツ愛好家やダイバー向けに設計されたアクアタイマーは、耐水性、回転ベゼル、クロノグラフなどの機能を備えた、堅牢で信頼性の高いダイビングウォッチです。
- インヂュニア: もともとエンジニアや科学者向けに開発されたインヂュニアは、スポーティなデザインと高度な技術と、耐久性を備えたコレクションです。ジェラルド・ジェンタ氏が関わったことでも有名です。
- GSTコレクション:1997年に発表されたスポーツウォッチのコレクション
一部を除き、12気圧防水を備え、永久カレンダーやクロノグラフ等の高機能時計のデイリーユースを目的としています。2000m防水の”GSTアクアタイマー”は、IWCの外装設計、製造の高機能を示しています。
- ダ ヴィンチ: ルネッサンスの博学者レオナルド ダ ヴィンチにちなんで名付けられたダ ヴィンチ コレクションは、クラシックなデザイン要素と現代の革新性を組み合わせています。
※ポルシェデザインからGSTスポーツウォッチの流れ※
1978年から98年まで、IWCは、ポルシェデザインとの共同開発が続きました。
1980年に、世界で初めてチタン・ケースのクロノグラフを発表し、独自にチタンの外装加工技術を開発、IWCの時計製造に新たな側面を加えました。
82年には、2000m防水の「オーシャン2000」を発表しています。
1997年に、ポルシェデザインとの契約が解消されます。IWCは自社でスポーツウォッチのほとんどをデザインしなければならなくなりました。
そこで誕生したのが、GSTシリーズです。
ゴールド、ステンレス、チタンの頭文字から撮られたGSTシリーズは、2003年までのわずか7年間の製造でしたが、アラーム、クロノグラフ、ラトラパンテ、パーペチュアルクロノ、ディープワン等、多彩な機能を持ったモデルが次々に登場しました。
いずれのモデルも、ケースとブレスレットが一体感を持たせたデザインとなっているのが特徴です。
ポルシェデザインの流れを保ちながらも、IWCの持つ機能性に重点をおいた作りとなっています。
ポルトギーゼ
初代モデルは1939年に、懐中時計のムーブメント、キャリバー74を搭載して発表された「ポルトギーゼ」です。
ポルトギーゼの起源は、ポルトガルと海との関係性にあります。
当時、船をうまく航行するためには、正確なマリンクロノメーターが必要でした。
そこで、ポルトガルの二人のビジネスマンがIWCに「スチール製でマリンクロノメーター級の精度をもつ時計が欲しい」と注文しました。
これに対し、IWCは懐中時計のムーブメントを搭載した腕時計を開発、これが「ポルトギーゼ」の始まりとされています。
初代ポルトギーゼ(Ref.325)に搭載されていたキャリバー74は、懐中時計用に作られていたため、ケース直径が43mmと大ぶりになりました。アールデコ様式の小型時計を志向する当時の顧客の希望するサイズとは、一致しませんでした。
それにもかかわらず、懐中時計のムーブメントを使用した最初の腕時計であるポルトギーゼは、今日の大型腕時計の先駆けとなりました。
ポルトギーゼの主要なデザイン要素は、アラビア数字のインデックス、薄いベゼル、細長いリーフ針、6時位置のサブダイヤルです。
1942年には、キャリバー98を搭載した第2世代が発売されます。こちらのモデルには、オリジナルのキャリバー74の進化版であるキャリバー 98が使用されています。
そして1981年まで製造された第3世代のポルトギーゼ(Cal.982搭載)があります。
1993年に、IWCはポルトギーゼコレクションを再設計し、今日に至るまで、非常に人気があります。
アクアタイマー
1967年に発表した200m防水で単方向回転インナーベゼルを備えたアクアタイマー。
ねじ込み式リュウズで200m防水を保証しました。
インナーベゼルは4時方向のリュウズで回転させますが、この方式は、最新のアクアタイマー・コレクションに継がれています。
潜水技術の基礎が築かれたのは、1943年にジャック・イヴ・クストーが技術者エミール・ギャランと供にアクアラングという水中呼吸装置を開発したことに端を発します。
それまでは素潜りか、1965年に開発された水上から酸素を送るバルブを使っていました。
アクアラングの発明後、本格的なダイバーズウォッチとして登場したのが、1953年にロレックスが発表した180m防水の「サブマリーナ」でした。また、オメガは1957年に200m防水の「シーマスター」を発表。これらより、遅れはとったものの、1967年にIWCが発表したアクアタイマーは、単方向回転のインナーベゼルという特徴を備え、その後の開発の基礎を築きました。
IWCは、2000m防水、チタンケース、機械式水深計という他に見られない独創的な開発を行いました。
そして、これらの集大成として、2004年に「アクアタイマー」コレクションが発表されました。
これにより、従来はGSTラインに入っていたダイバーズ・ウォッチはアクアタイーとして独立しました。
(GST:ゴールド、ステンレス、チタンの頭文字をとった高機能モデルのコレクション)
パイロットウォッチ
エルンスト・ヤコブ・ホムバーガーが IWC の指揮を執っていたとき、息子たちの航空への強い関心に触発されて、ブランド初のパイロット ウォッチである 1936年の「スペシャル・パイロット・ウォッチ Ref.IW436」を開発しました。
パイロットウォッチを大きく分けると、以下の大きなコレクションに分けられます。
・マーク
・ビッグ・パイロット・ウォッチ
一つずつ紹介していきます。
マーク
・スペシャル・パイロット・ウォッチ(マークIX)
パイロットウォッチの初代モデルは、1936年のスペシャル・パイロット・ウォッチ(Ref.IW436)です。
開発当時はヨーロッパ全土で航空事業が発展し、高性能で使いやすいパイロットウォッチの製作が必要となっていました。パイロット用腕時計が登場する前は、懐中時計を使用する必要がありましたが、これは容易に想像できるように、飛行機の操縦中に使用するのは簡単ではありませんでした。
パイロットはフライトジャケットの外側に取り付けられる大きな時計を必要としていました。
また、第2次世界大戦では、兵士が共通の正確な時刻を知ることが、作戦を成功に導く条件となったので、視認性と耐久性に優れた時計が多く求められました。
そして、軍用時計のメーカーであることは、時計メーカーとしての信頼の高さにも繋がりました。
Ref.IW436 は耐磁性を誇り、急激な温度変化にも対応できました。
大きな黒い文字盤、アラビア数字のフルセットなど、現代に至るまでの基本的なデザインはこの時代に完成されました。
・「W.W.W.」(マークX)」
1945年、英国王立陸軍用に「W.W.W.」が開発されます。W.W.W.は「Watch,Wrist,Waterproof」の頭文字です。
12時下の位置には英国軍用品に用いられていた矢印型の「ブロードアロー」マークが付き、これは英国官有物であることを示しました。ムーブメントは、スペシャル・パイロット・ウォッチにも搭載されたCal.83です。
英国陸軍用に6000個製造され、シリアルに、12,021から18,021の数字が付いています。
ブラックダイアルにスモールセコンド、時を示す発光性のアラビア数字、そしてミニッツサークルが設けられていました。
・マークXI
IWCは英国国防省の軍用パイロットウォッチの要請に応え1948年にタイプ XI を作成しました。
よりモダンなデザインになり、堅牢なムーブメント、コックピットでの過酷な使用にも耐えられるケースを持ち、後継モデルがリリースするまで46年かかる程に完成されたモデルでした。
オールドインターの中でも、評価の高いCal.89を搭載し、文字盤のレイアウト等、現行のモデルに至るまで、このマークXIがベースとなっているといってもいいほどの人気モデルでした。
1955年の「インジュニア」の耐磁性にも影響をあたえました。
・マークXII
1994年に、正式なマークXIの後継、タイプ XII (Ref.IW3441)がリリースされました。
タイプ XIIは、ジャガールクルトのムーブメントをベースとしたCal.884/2、スクリュー型リューズ、サファイアクリスタルを初めて搭載し、そのすべてを36mmのケースに収めました。
マークシリーズとしては初の市販向けとして発売されました。
・マークXV
1999年に発表されたモデルです。デザイン等のコンセプトはそのままに、ケース経が38mm
にサイズアップ、ムーブメントはETA2892A2をベースとしたCal.37524が搭載されました。
その後のXIII(13)とXIV(14)は、不幸を意味する数字であることを考慮し省略されたといわれます。
・マークXVI
2006年に発表され、ケースサイズは39mmとなり、インデックスがバーデザイン、針は菱形のデザインになりました。
・マークXVII
2012年発表のモデル。ケース経は41mm、日付表示が3日間表示にかわり、よりコクピットデザインに近づいた印象です。
・マークXVIII
2016年に登場。サイズはやや小さくなり40mmに。IWCマークXVをイメージさせるクラシックな文字盤と、セリタ社製をベースとしたムーブメントを搭載。
・タイプXX
2022年に発表された、タイプXX(Ref.IW328201)。
ケースサイズは40mmのモデルです。
自社製キャリバーCal32111が搭載され、優れた耐磁性と120時間のパワーリザーブを兼ね備えています。
ビッグパイロットウォッチ
・ビッグ パイロット ウォッチ キャリバー52 T.S.C.(Ref.IW431)
1940年に1000本製造されました。
軍用時計として扱われる最高級の精度を出すべく、懐中時計用のCal.52 T.S.C ムーブメントを搭載しています。
視認性を高めるため、ケースサイズ55㎜、厚さ16.5㎜、重さ183gとサイズはかなりの大きさでした。
IWCが開発してきた時計の中でも最大の腕時計です。
コックピットの計器類に似たデザインで、視認性は高く、今にいたるまでその要素が引き継がれています。
また、アラビアインデックスや針には、初代モデルと同じベージュ色を採用しており、クラシックな雰囲気をかもし出します。
12時位置の三角形マークはパイロットウォッチの定番デザインとなります。
りゅうずは円錐型をしておりひときわ目を引きます。
コクピット内で手袋をはめながら操作が出来るように開発されました。
全体的にこのような操作のしやすさに重点が置かれており、パイロットウォッチとしての役目をはたすべく開発されたことが伺えます。
・ビッグ・パイロット・ウォッチ(Ref.IW5002)
2002年に発表された、1940年の「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」の正統な後継機種です。
ビッグ・パイロット・ウォッチはケースサイズ46.2mmと大型で、自社製のCal.52110を持つ、機能性最重視の軍用時計モデルです。
3時位置に7日間のパワーリザーブ表示計を持ち、無反射コーティングのクリスタルガラスは気圧の急激な変化にも対応しました。
IWCの主任エンジニアであるクルト・クラウス博士は、長い時間をかけて、ムーブメントCal.52110の改良に取り組んでいました。
2021年にはさらなる後継となる「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」(Ref.IW329301)が発表されています。
ポートフィノ
ポートフィノとは、イタリアの 高級リゾート地「ポートフィノ」が由来で、ゆったりとした港町の雰囲気をイメージして作られています。
ポートフィノは 1984 年に発表され、最初のモデル Ref.5151は、大型のケースを備えるなど、当時としては大胆な要素をまとめた腕時計でした。
1988年に発売されたRef.3730。回転式日付表示を備え、やや大ぶりのケースサイズでした。
ジャガー・ルクルトの「セミメカニカルクォーツ」Cal.631を採用していました。
IW3513は、1990代に発売された、初期ポートフィノの代表的なモデルです。
こちらは、筆記体のロゴが、通常のロゴに変わる直前のモデルです。
昔のIWCの時計を俗に「オールドインター」と呼びますが、現在も人気のあるオールドインターのロゴは筆記体のものが多いです。
IW3513は筆記体ロゴの代表格の一つとされ、今でも高い人気があります。
1993年、サイズダウンをはかったクラシカルな2針のドレスウォッチ、ポートフィノ ハンドワインドRef.2010を発売。
ベゼルやダイヤルは極力シンプルになっており、装飾などは一切ありません。
こちらのモデルは2005年まで生産されました。
ポートフィノ・オートマティック37 は2014年に発表された、ケース経37mmの3針時計で、IWCにおける、レディースウォッチの定番モデルです。
インヂュニア
インヂュニアは、1954年にIWCが発表した技術者や探検家向けに作られたコレクションです。インヂュ˜ニアとはドイツ語でエンジニアの意味です。
耐水性、耐磁性、精度を備えていることが特徴で、この点では、インヂュニアはロレックスのミルガウスやエクスプローラーに似ています。
稲妻をモチーフにした「INGENIEUR」のロゴデザインは、初代から今に至るまで受け継がれています。
・Ref.666A
インヂュニアの初代モデルはRef.666A です。
1955年、パイロットウォッチ マークXIを元に市販向けに発売されました。
アルバート・ペラトンがデザインしたRef.666は、ラウンドフォルムのオーソドックスなデザインで、ドーフィン針と、先の尖ったバーマーカーを備えた文字盤でした。
また、耐磁性能は80,000A/mで、100メートルの耐水性もあり、当時としては驚異的な耐久性をもちました。
後継の666ADでは、3時の位置に日付窓が追加されました。
・インジュニアSL
1976年には、ジェラルド・ジェンタ氏による全面的なデザインの再設計が行われ、インヂュニアSLとして発売されました。
ケースの5カ所にビス止めが施されたベゼルと、一体型のブレスレットが特徴的で、40mmのケースサイズは当時としては大ぶりなサイズだったため、”ジャンボ”と呼ばれました。
しかし、クォーツ時計の影響と高価格帯だったこともあり、ヒットとはなりませんでした。
・インヂュニア 500,000A/m
インヂュニア 500,000A/mは、いかなる磁場にも耐えうる強固なモデルです。
ニオブ・ジルコニウム合金製のゼンマイを用いたこの時計は、磁気共鳴断層撮影装置で徹底的に検査を受け、500,000万A/mという驚異的な耐磁性を示しました。
・インヂュニア IW322701
2005年には自社ムーブメントを搭載したインジュニアが復活します。
ケース経が42.5mmと現代にマッチしたサイズとなり、より万人受けを目指したモデルとなりました。
インデックスの幅は太くなり、12時と6時位置にはアラビア数字が加えられ、よりスポーティな印象となりました。
2007年には、IW322801を発表しますが、耐磁性能を捨てシースルーバック仕様としてインジュニアに新しいラインを加えました。
・IW357002
2017年以降は、原点回帰し、スポーツクロノグラフのモデルに重点をおいたラインナップを発表しています。
ポルシェデザインやGSTシリーズが終了した後に、その穴を埋める役割をインジュニアのラインに求めているのではないでしょうか。
ポルシェデザイン
先に紹介したポルシェデザインです。
ポルシェデザインは1977年にIWCと提携し、この関係性はおよそ23年間続きました。
1978年「コンパスウォッチ」を発表。
6時側のラグにあるボタンを押すことで、時計の下部に備わったコンパスが表示される仕掛けになっています。
1981年、IWCは、チタン製ケースとブレスレットを備えた初の腕時計であるチタニウムクロノグラフを発表しました。チタン製であることに加え、ケースと一体化したクロノグラフボタンなど、ポルシェデザインならではの洗練されたデザインが特徴的です。
生産期間も長く、多くのバリエーションが存在し、そのなかでもIWCのロゴ入りのモデルは高値で取引されます。
・オーシャン2000
1982年に発表された、ポルシェデザインの中でも最も知名度の高いとされるモデルです。
旧ドイツ軍から要請を受け製作したモデルで、軽量なチタン製ケースを採用し、かつ、2,000m防水を実現したことで有名です。ヘリウムガスが侵入することのない完全密封のケース構造となっています。
・オーシャン500
オーシャン2000のボーイズサイズとなるモデルです。コいンパクトなチタンケースに500メートル防水性能を備えた本格的なダイバーズウォッチです。
ヨットクラブ
1967年のバーゼルフェアで発表されたヨットクラブは、あらゆる天候、環境で着用できるカジュアルな時計を作成するというIWCの試みから生まれました。
第二次世界大戦中および戦後に、同社が製造した軍用時計の機能性と、1967年に発売されたブランド初のダイバーズウォッチであるアクアタイマーのデザイン性を兼ね備えた時計ということです。
・Ref.1811
ヨットクラブの初代モデル Ref.1811は1967年に発売されました。
衝撃を吸収する耐震機構を兼ね備えたCal.8541を採用し、10気圧防水、ペラトン自動巻き機構による巻き上げ効率の向上など、当時の先端技術が組み込まれていました。
・ヨットクラブⅡ
1977年には、ジェラルド・ジェンダ氏によるヨットクラブⅡを発表。
ジェンダ氏は1976年にインジュニアも手がけていますので、IWC向けに設計された2番目のモデルとなります。
ロイヤルオークを思わせる八角形のベゼルを持ちながらもビスは表面に見えず、ケース上面からサイドへ滑らかな斜面をもつ柔らかいデザインです。
以前のCケースのヨットクラブは、60年代および70年代の大部分を通じて、ブランドにとってのベストセラーとなりましたが、より安価でより正確な日本製のクォーツ時計に苦しんでいました。
そこで、クォーツのアイデアを否定するのではなく、代わりに機械式時計とクォーツの両方を開発していくハイブリット戦略に落ち着いていきました。
ヨットクラブⅡに関しては、そのほとんどがクォーツ時計となっていますが、一部、ペラトン氏の作り上げた自動巻きCal.8541が搭載されたモデルもあり、現在でも人気があります。
・ポルトギーゼ・ヨットクラブ・クロノグラフ
2010年に発表されたモデルで、このモデルからヨットクラブはポルトギーゼのコレクションに統合されました。
自社製ムーブメントCal.89000シリーズを搭載、フライバック機能を備えた高性能クロノグラフのモデルです。
ヨットクラブはポルトギーゼのデザインを基礎にふまえながら、これまでのポルトギーゼには見られないスポーティなデザイン、複雑機構を備え、独特のラインを形成しています。
ダ・ヴィンチ
・初代 ダ・ヴィンチ(Ref.3501)
ダ・ヴィンチの名を冠した最初の時計は、六角形のケースを備えたスイス製クォーツのモデルでした。これが IWCの最初のクォーツ時計であるかどうかについてはいくつかの説がありますが、ダ・ヴィンチが1970年代初頭のIWCの最高級クォーツモデルであったことは疑いの余地がありません。
斬新なケースデザインはジェラルド・ジェンタがデザインしたと言われています。ベゼルのないクッションデザインから、複雑な一体型ブレスレットに至るまで、ジェンタの特徴的な要素の多くが組み込まれているため、これは非常に可能性が高いと思われます。
・ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー
1985年のIWC ダ・ヴィンチ・クロノグラフ・パーペチュアル・カレンダーは、時計の歴史において最も重要な時計の1つとされています。
IWCの時計師クルト・クラウスが犬の散歩中に頭の中で設計したと伝えられています
ETA7750のクロノグラフに、2499年まで西暦表示のできる永久カレンダー機構を搭載させるなど、クォーツ時計が席巻していた当時としては、まったく斬新なものでした。
そして、このケースには、新しく斬新なヒンジ付きストラップが取り付けられており、大型の時計を手首にぴったりとフィットさせることができました。
1988年には、より小型の「リトル・ダ・ヴィンチ」が登場しました。こちらはクォーツムーブメントが使用されました。 1980年代まで、クオーツムーブメントを搭載した時計は、時刻とカレンダーの機能に限定されていました。 最初は、複雑機構を追加するとスペースが取られすぎ、バッテリーの消耗が早すぎると思われていました。初期のステッピングモーターでは、曜日と日付の機構を動かすのが困難だった上、トルクの問題もありました。代わりに、クオーツの開発はムーブメントのサイズを小さくすることに重点が置かれていました。
・ダ・ヴィンチ・クロノグラフ
2007年の「ダ・ヴィンチ・クロノグラフ」では、丸形のケースとヒンジ付きラグから、元のトノー型に戻りました。
IWC初の自社製クロノグラフムーブメント、Cal.89360が搭載されました。
こちらは時と分を一つのサブダイヤルで一度に読み取ることの出来る初めてのムーブメントです。
IWCの優れた製造技術を示す複雑な構造のモデルです。
この記事を書いた人-
SY
イリスラグジュアリー新人時計ライター。
ブランドの歴史を研究中。